ものわすれとされる主な症状
良性健忘(ものわすれ)
加齢による年相応の記憶障害のことを良性健忘と言います。一般的には物忘れと呼ばれているものです。人の名前が思い出せない、眼鏡や鍵をどこに置いたか忘れてしまったなど一見すると認知症の症状と同じではと思うかもしれませんが、この場合は大事なことはしっかり覚えています。
例えば、朝ごはんに何を食べたかは忘れていても食べたことはしっかり覚えている、その人の顔はしっかり覚えてはいるものの名前が浮かばないというような場合です。このような症状は単なる物忘れです。また良性健忘の場合は、物忘れをしているという自覚があるのも特徴です。
このほかにも見聞きした情報で大切と自らが判断し、記憶だけを頼りにしようとせずに紙に書くことで、自らの記憶障害を補っていくという能力を働かすことができます。
軽度認知障害
認知機能の中には、記憶、決定、理由づけ、実行など様々なものがありますが、このうちのひとつの機能に障害が見られるものの日常生活には影響が及んでいない状態を軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と言います。なおMCIの診断基準として、本人やご家族の方から認知機能低下の訴えがある、認知機能は正常ではないが認知症の診断基準も満たしていない、基本的な日常生活機能は正常というのがあります。
ちなみにMCIと診断されたのにも関わらず、そのままの状態が続けば認知機能の低下は進んでいきます。ある報告によると5年間何もしない状態が続けば約50%の方が認知症へと進行すると言われています。しかし軽度認知障害の段階で適切な治療を行えば、本格的な認知症の発症を遅らせるなどする可能性は高くなります。MCIと診断されたら、直ちに医療機関をご受診ください。
認知症
認知症とは、これまで正常に働いていた脳の知的機能(記憶、判断、学習、計画 など)が脳の病気や障害によって低下してしまい、それによって日常生活や社会生活に支障をきたしている状態を言います。よく物忘れと症状が似ていると言われますが、認知症では体験したことの全てを忘れてしまい、物忘れをしている自覚がありません。
以下のような症状があれば一度ご相談ください(例)
- もの忘れがひどい
- 場所や時聞がわからなくなる
- 人柄が変わってしまった
- 判断や理解力が低下している
- 何事にも意欲がみられない
- 不安感が強い など
85歳以上の4人に1人以上は認知症
また認知症は年をとるほど発症しやすくなります。その有病率は65歳以上70歳未満では1.5%となっていますが、85歳以上になると27%に達するというデータもあります。ただし、若い世代の方も無関係ではなく、脳血管障害や若年性アルツハイマー病によって認知症を発症することもあります。ちなみに65歳未満で認知症を発症した場合は、若年性認知症と言います。
診断方法について
認知症を診断するきっかけというのは、ご自身または同居されるご家族の方が物忘れなどを訴える(自覚または指摘)ことから始まります。最初に問診を行うわけですが、その際に医師が発症時の様子や経過、特徴的な症状、行動や心理症状など記憶障害以外の症状を確認していきます。そして認知症の疑いがあれば認知機能検査(HDS-R、MMSE など)を行います。その結果、異常ありと確認されたら認知症の特徴的な症状や神経症候の有無、画像検査(CT、MRI、SPECT など)をして、どの認知症であるかを鑑別していきます。なお、認知症との診断を受けたとしても、早期に発見することができれば、現在の医療では完治することは困難でも、進行を遅らせることは可能です。
認知症の種類について
認知症と一口に言いましても認知症を引き起こす脳の病気というのはたくさんあるのですが、主に加齢によって脳の神経細胞の数がだんだん減少し、それによって脳が変性することで認知機能障害などが現れる変性性認知症と脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)など脳血管の病気によって発症する脳血管性認知症に分けられます。
変性性認知症には、認知症の中で最も患者数が多いとされるアルツハイマー型認知症のほか、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症などが含まれます。他にも認知症の原因となる病気はいくつかありますが、先に挙げた3つのタイプの認知症と脳血管性認知症を含めた4つのタイプの認知症で全認知症患者の9割を占めています。
認知症の原因となる主な4つの病気
アルツハイマー型認知症 | アミロイドβなど特殊なたんぱく質が脳に蓄積していくことで脳の神経細胞は破壊されて減少、これによって脳(海馬)が萎縮(主に頭頂葉や側頭葉が障害を受ける)し、発症します。主な症状は、記憶障害、見当識障害、思考障害(物盗られ妄想)などで、脳から指令を受ける身体機能も徐々に失うようになります。全認知症患者様の6~7割程度の方がアルツハイマー型認知症と言われています。 |
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レビー小体型認知症 | 特殊なたんぱく質(レビー小体 など)からなる物質が脳の神経細胞内に蓄積していくことで発症します。高齢者(65歳以上)によく見受けられますが、30~50代で発症する方もいます。男性に多くみられます。初期症状としては、認知機能が良くなったり悪くなったりを繰り返す、幻視・幻覚・妄想、レム睡眠行動異常、パーキンソン病の症状(手足が震える、表情がかたい、動作が減る・ぎこちない など)があります。なお物忘れの症状が初期に現れることはありません。そのため、認知障害が起きる前に正しく診断され、治療を開始することができれば、認知障害を防ぐ可能性も高まります。 |
前頭側頭型認知症 | 主に40~60歳代の方が発症しやすい認知症です。これはピック球というものが脳の神経細胞に蓄積し、これによって前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症するようになります。脱抑制(騒がしく、落ち着きがない など)、人格や性格が極端に変わる、常同行動(決まった行動をとるようになる)といった症状がよくみられます。ただ記憶力は保たれているほか、病状は非常にゆっくり進行するという特徴もあります。 発症の原因は現時点では不明も脳の神経細胞の中にあるたんぱく質が関係していると考えられています。ちなみに前頭側頭型認知症にはピック病も含まれています。 |
脳血管型認知症 | 脳血管障害(脳梗塞、脳内出血 など)を引き金として発症する認知症です。脳血管障害とは、脳の動脈(血管)が何らかの原因で詰まる、もしくは血管が破れて脳内に出血が発生したことで起こる障害を言います。この場合は脳細胞に酸素を十分供給できなくなります。すると脳の神経細胞は死滅し、やがて認知症を発症するようになるのです。このタイプは、障害部位にのみ機能低下が現れるので、まだら認知症、運動・感覚障害、情動失禁(感情の抑制が効かない)などの症状が現れるようになります。脳血管型認知症は全認知症患者様のおよそ20%を占めると言われています。 |
治療に関して
治療に関してですが、アルツハイマー型認知症の患者様では、脳の神経細胞の破壊によって起きる症状(記憶障害や見当識障害など)を改善させなくてはならないので、病気の進行を遅らせる治療薬を使用していきます。そのほか、不安、焦り、怒り、興奮、妄想などの症状が出ていれば、それらを抑えていく治療薬も用います。またレビー小体型認知症もアルツハイマー型と同じ治療法になりますが、パーキンソンの症状も現れている患者様の場合は、抗パーキンソン薬も使用していきます。なお前頭側頭型認知症では、現時点で有効な治療法が確立しておりません。ただ特徴的な症状があれば、対症療法として抗精神薬を使用していきます。
脳血管型認知症の患者様の場合は、脳血管障害(脳卒中)を再発させることで症状をさらに悪化させてしまうことが考えられるので、発症リスクを高くさせる、高血圧、糖尿病、心疾患などの治療をしっかり行い、脳梗塞などを再発させないための予防薬(高血圧であれば降圧剤 など)を使用していきます。
また上記の治療に併行して、患者様にまだ残っている認知機能や生活能力を薬物に頼らずに高めていく非薬物療法も行うことで脳を活性化させていくこともしていきます。